会社員のための雑学ハック

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ノバルティスの業務停止は妥当か。業務停止処分で患者・企業はどうなる

ノバルティスの副作用未報告・業務停止処分をまとめる


ノバルティスファーマを業務停止処分へ NHKニュース

 

ノバルティスファーマに業務停止処分という重い処分の方針が決まった。

このニュースのはてなのコメントを読むと「患者が一方的にデメリットを被るのではないか」「副作用件数や15日の営業停止処分は妥当か分からない」「ライフラインを営業停止とは正気か」等のコメントがある。

これらについて、医療業界の末端社員として出来るだけ分かりやすく解説をしてみたい。また自社の機密保持等の問題により、詳しい内情は書けない点もあるが、一般的にこれを読んだら、ノバルティスへの処分と副作用の報告漏れの重要性・意味がわかる記事になるように努めて書いてみる。

 

1.副作用の未報告は、どのような社会的デメリットがあるのか

2.有効性と安全性のバランスとは

3.処方の判断の妥当性を壊した副作用報告漏れ

4.3264人の副作用未報告の桁違いの多さ

5.業務停止15日間で患者はどうなる?

6.製薬企業にとって、業務停止処分とは?

について解説・考察を行った。

1.副作用の未報告は、どのような社会的デメリットがあるのか

まず、副作用報告漏れはどのような事かを書いてみる。

副作用は製薬企業が収集・国への報告を行う。当たり前にどの製薬企業でも行っている通常業務である。今回は、「当たり前」である副作用報告がノバルティス社で非常に多数の漏れが発覚した。

なぜこのようなことが起こるのかはまだ解明されていないが、自社製品の売り上げ拡大の為にこのような事をしたのではないかという推測が一般的である。MR(医療情報担当者)の怠慢のみの可能性もあるが、恐らくは売り上げのアップを目的としたマイナスデータを隠蔽する目的でのことであろう。

ただし、仮にそうだとしても売り上げアップを目的とした隠蔽とは絶対に書かれないことも事実である。(MRの怠慢・社内でのシステムミス・報告スタイルのミス等言い訳はいくらでも考えられる。)

では副作用発現を報告しなければ、売り上げは上がるのかと考えると間違いなくYESである。

医療用医薬品は主に医師が処方の判断をし使用する事によって、その会社の収益が上がることになっている。

故に、医師が処方するかどうかが製薬会社の売り上げにとって最も重要なのだが、医師がどのような情報を基に処方の判断を下すかは、有効性と安全性のバランスを見ての判断が一般的である。

(補足)ちなみに接待や労働提供(草むしりとか)によって処方をするケースの方が多いのではないかと思われる方もいるかもしれないが、それは昔の話である。現在は、一般的に接待・労働の提供は禁止となっており、このことが発覚すると該当の製薬会社には処分が下されることとなっており、以前に比べると純粋に医薬品の有効性と安全性のバランスをプロモーションし処方されるケースが格段に多くなっている。もしそのようなケースをご存知の方は連絡ください。

つまり有効性と安全性のバランス)×(営業力)≒製薬会社の売り上げ 

有効性とは、患者に対してどのくらいの治療効果があるかということであり

安全性とは、多くの場合、副作用の発現状況を指す。

 

 

2.有効性と安全性のバランスとは

この有効性と安全性のバランスを見て、処方を決めるのだが、医薬品のプロモーションは最新の情報を使い、統計的に有効であると判断されるデータに基づいてのプロモーションが行われる(統計の取り方について問題があるケースもあるが)。

例えば、風邪薬に重大な副作用が起こるようでは処方はできないが、がんの治療薬や命に関わる病気の薬であれば重大な副作用が起こりうるとしても、投与した場合のメリットが大きいと判断されるケースなどは、この有効性と安全性のバランスによって決められている。

その情報を提供するのが製薬会社である。

 

 

3.処方の判断の妥当性を壊した副作用報告漏れ

シンプルに例えてみると、

未治療での致死率50%の患者に対して、その治療目的で80%で命に関わる副作用がおこる医薬品を投与するケースはあまり考えられないが、

15%で命に関わる副作用が起こる医薬品を使用するケースは大いに考えられることである。

このように安全性を気にしながら投与する医療用医薬品にとって、安全性、つまり副作用の発現状況は最も重要と言って良い。

 また、この副作用発現状況は医師だけでなく、薬剤師の業務にも大きく関わってくる点であり、これらの情報を基にした調剤・説明を行っている薬剤師のこれまでの業務に対しての冒涜といってもよいであろう。

 

4.「3264人」の副作用未報告の桁違いの多さ

今回のノバルティスの副作用報告漏れに関しては 、どの医薬品で何件のケースでどのような副作用が隠蔽されていたのかはまだニュースが無いが、3264人の副作用発現の未報告はあまりに多い。アフィニトール、グリベック、ジャカビ、タシグナといった抗がん剤を持つノバルティスであるが、それぞれに100件の新たな副作用が出ただけで副作用情報の更新が必要であろうとのことを考えるとこの3264件というのはあまりに多い。

1件でも副作用の未報告は重要であり、以前にノバルティスは


ノバルティス、副作用疑い報告せず 白血病薬の約30例:朝日新聞デジタル

 

白血病治療薬で30例の副作用の未報告事件を起こしており、30件の未報告で各社マスコミに取り上げられるなど、上記した、判断の根源となる副作用情報についての未報告は例え数例であっても非常に大きく取り上げられる程、重要なものである。

30件でマスコミに取り上げられる副作用の未報告であるが、今回は3000件を超えており、桁が違う。副作用悲報告・その件数から非常に大問題となった。

 

 

5.業務停止15日間で患者はどうなる?

この件に関しては、詳細が無いが15日間の業務停止は非常に重い処分である。

ここで、患者さんに被害が行ってしまい製薬会社は守られているのでは?とのコメントもあったので、考察してみたい。

 

結論から言うと、患者さんには悪影響はほぼ及ばないであろう。一方、製薬会社にとってはこの処分は非常に打撃を受けることとなる処分になるはずだ。

 

業務停止処分とは、ノバルティスだけが下された処分ではない。過去には田辺三菱やテバ製薬にも下された処分である。

以前の田辺三菱事件:http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005r9l-img/2r98520000005rbq.pdf

 

田辺三菱製薬の業務停止の例から考察するに、ノバルティス製の薬を使用している患者さんにとって、業務停止で薬が無くなってしまうのでは。といった不安の声も上がってくるであろうが、市場にある医薬品にとって、他社製品の代替え品はおよそ揃っており、代替えが可能である。また代替えが効かない製品に関しては、「代替性がなく保健衛生上不可欠」な製品に関しては田辺三菱の業務停止例では製造販売停止から除外するなど、替えの効かない製品はそのまま販売される事になるであろう。

 

つまり、①他の製品の代替え品への処方が行われ②代わりの無い製品についてはそのまま販売されることとなり、薬が変わって不安であることや、その効果は個人差があることは考えられる。患者さんへのデメリットはそれほど大きくないものと考えられているが、何もしていない患者さんに対してのデメリットがあることは、懲罰的罰金を行えない日本にとっての製薬企業への処分である業務停止処分の大きな問題点ではある。

 

 

6.製薬企業にとって、業務停止処分とは?

業務停止処分は製薬企業にとって非常に重い処分である。

確実に売り上げは落ちる

1.代替品への処方が進む(売り上げの大きな低下)

2.病院・クリニックでの採用品のカットが行われる

3.企業イメージの低下による、人材流出と優秀な人材の確保が困難になる

4.企業イメージの低下による、今後の新薬の売り上げの低減

等が挙げられるであろう。

つまり、現在の売り上げだけでなく、将来的な売り上げに大しても大打撃があるのが業務停止処分である。

製薬企業は「企業」である為、「利益を生み」健康に貢献する事を第一義にしているが、今回のケースでは、その大前提にある医療への信頼性を大きく揺さぶったことにより、このような売り上げに対する処分が下されたと考えられる。

 

 

以上、今回のノバルティス副作用未報告事件についてまとめてみた。

一般化した部分も多く、分かりづらい表現になってしまった点もあったが、どのような処分でどのような所に影響があるのかといったことは意外にもあまり知られていない業務停止処分・今回の不祥事についてまとめてみた。

私の薬はどうなるの。といった患者さんやご家族や周りの方々、また製薬企業許せない!との感情のみをお持ちの方に対して少しでも役に立てましたら幸いである。

補足・修正・ノバルティスむかつくぜ!等ありましたら教えて下さい。

<追記>

以後、医療ニュースに関してはサブブログを開設致しましたのでそちらで更新致します。最新の医療ニュースについては、下ブログをよろしくお願い致します。