「パクリ経済」とは? パクられの先陣達から、パクリについて学ぶ
パクリはイノベーション・産業を発展させる
コピー文化がもたらしたイノベーション・産業の発達と、パクリへの対処について考えたい。ざっくり言うとアメリカのコメディ業界でのコピー文化と日本での漫画家によるオマージュ的なものの構造がよく似ていて、そこにはパクリへの対処のヒントがあるのではないかということ。
コピーとパクリに関しては、特に違いのないものとここでは仮定したい。
この記事で取り上げる書籍は「パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する」というもの。下にAmazonリンク貼っておきます。
この本の主旨をまず書いておく。
パクリで発達していく産業
アメリカにおける、ファッション・料理・コメディ・スポーツの戦略・文字のフォントなど、著作権で保護されていない(合法的にコピーできる)分野を取り上げて、パクリ文化とその功罪、またコピー製品によって、産業そのものがどのような発展を遂げているのかを記している。
米国ファッション業界のコピー文化とその発展
ハイブランド製品をコピーするファストファッション業界
例えば、ファッション業界であれば、基本的にファッションデザインに関して著作権の保護対象外であり、コピーが蔓延っているとしている。例えばハイブランド製品と同様のデザインで安価に発売するとされるフォーエバー21のように。
コピー製品の氾濫は一般的に、クリエイティビティを妨げ、産業の発展を阻害する要因のようにみえる。
しかし、同書では
簡単かつ自由なコピー制度の影響は、ファッション業界にとって、長期的に見て有益だ。
(注:この記事の引用箇所は「パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する」からのもの
としている。
もちろん個人のデザイナーを見ると、コピー製品によって被害が出るとしつつも、
コピー製品は産業全体に損害を与えない。それどころか、実際にはコピー製品は産業の成功の鍵を握っているのだ。コピーが多ければ、その分だけファッション・サイクルが加速し、ファッション・サイクルが加速すればデザインも増え、売り上げも増える。
つまり、コピー製品の規制をかけないことが個人として見たときはデザイナーは被害を受けるが、産業全体としてはサイクルの加速から、より産業は発展していくとしている。同書ではこの論の具体的な数字や例を提示している。
料理やスポーツでの戦略、文字のフォントの発展もコピーが大きく関与した
他にも料理やスポーツでの戦略、文字のフォントを取り上げて、そのコピーの歴史とそれによる功罪と創造性がコピーによって発展したという「パクリ文化の産業への影響」についてまとめている。
ここまででも非常に面白い読み物である。本の紹介だけではつまらないので、発展させたい。
ここからは米国のコメディ業界のコピー文化と、日本のTwitterでの事例、そしてパクリへの対処法を考えてみたい。
パクられたら、どうするのがいいんだろう?
アメリカのコメディ業界での盗用に対する2つの制裁
同書の山田奨治氏の解題では、コメディの項目は、多くのコメディアンが個人事業主であるアメリカと違い、日本では大手プロダクションにほとんどの芸人が所属している点と、コピー(主に口頭伝承)によって支えられた落語文化がある点が違うといった点がある。
また日本と米国は著作権の捉え方では大きな異なりがあるものの、コメディの項目でも基本的には同様であるとしている。
以下に挙げるのはアメリカのコメディにおける盗用を見たもの。
パクリを叩く、超法規的なシステム
コメディは法規制が無い代わりに、ジョーク等の盗用については、独自の超法規的なシステムを発達させたとしている。コメディにおける盗用者への制裁は「評判への攻撃」と「取引拒絶」を挙げられ、コミュニティからの追放とクライアントへの呼びかけであるという。このことが多くのイノベーションに動機を与えているとしつつも、
しかし一方で、このシステムは正義の乱用(ゴシップや抗議制度の不備を含む)も生み出しているし、正規法には存在する所有権や譲渡のあらゆる形態は考慮されていないし、明確で公正な使用基準と所有権への妥当な時間的制限が欠如している。
日本における最近のパクリ事例とその対応
多くのコピーは産業全体のコピーにつながるとしつつも、作者個人の単位で見るとコピーの氾濫はマイナスにしかならないだろう。先行者利益についても検討されているが、多くの面でパクリは先行者のマイナスになることは間違いない。
そこでパクリへの対応の検討をしたい。
個人はパクリへどのように対処すべきか?
アメリカのコメディ業界は超法規的なシステム、つまり「評判への攻撃」と「取引先への呼びかけによる拒絶を促す行為」によって、盗用者へ私的な制裁がされているとされている。
これって、最近何かで見た気がする。
なんかあったような
A氏がB氏に対してコンセプトのパクリだと超法規的な制裁「評判への攻撃」と「取引先への呼びかけ」を行い、その後C氏によってA氏のコンテンツのパクリを告発したような事例があったような...思い出せない...チガウ...ネスサン
正義の乱用は危険だ。特に、何かある場合は
もしかしたら道徳の教科書かも知れない。思い出せないが、そんな事例はいくらでもあっただろう。これが良いとか、悪いとかではない。ただ、その構造が米国のコメディ業界と日本の個人で動くクリエイター同士の業界とでは非常によく似ている。A氏の騒動を知っている人ならば、正義の乱用による危険性はこの事例で学んだはずだ。
パクリに対してクリエイターはどう対処すべきか?
歴史から学ぶことは多い。また現代で進行中の事例から学ぶことは可能だ。だとするならば、「パクリ文化への対処」は、この本の中のことが正しいならば、アメリカのファション業界から多くが学べるだろう。
米国ファッション業界では、「コンセプト」だけでなく、ファッションの商品そのものである「デザイン」までコピー製品が発売されているという。
そのヒントがここにあるのではないか
対処方法は1.法律的な対応で相手に賠償させる、2.超法規的な対応で相手の評判を下げる、3.それらを行わずに逆手にとった自身の評判を上げる対応などが考えられる。
1に関してはアメリカにおける著作権でカバーされている産業が参考になる。2に関してはアメリカのコメディ業界のジョークの盗用が参考になるだろう。問題は3なのだ。誰しもが目指す場所なのに、その参考になる事例が少ないと感じていた。
3のパクリに対して自分の評判を上げる対応はなんなのだろうか、果たしてそれが出来るのだろうかと考えていたが、そのヒントが同書にあったと感じた。
昨日と、明日の違い
米国装飾業界の渦中にいる人物、ランバンのアルバー・エルバスのコピー製品に対しての言葉を引用して、この記事の最後にしたい。
彼はコピー製品を生産するものに対して気にしていないおらず、「彼らは昨日をコピーすることはできても、明日はコピーできないんだから」と語ったという。
(引用箇所は全て「パクリ経済ーーコピーはイノベーションを刺激する」から)
- 作者: カル・ラウスティアラ,クリストファー・スプリグマン,山田奨治(解説),山形浩生,森本正史
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2015/11/26
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