映画「FAKE」(森達也監督)の感想・レビュー/「ネット炎上」について
森達也監督「FAKE」を観た感想・レビューをしたい
<公式サイトより引用>
かねてから、見たかった映画「FAKE」を観に行った。2016年6月4日より公開されたこの映画は「誰にも言わないでください、衝撃のラスト12分間。」というコピー。ゴーストライター騒動で一層有名になった作曲家である、佐村河内 守氏を追った、ドキュメンタリー作品だ。
<特報動画はこちら。約1分の動画です。>
森達也監督による15年ぶりの新作映画
監督は地下鉄サリン事件発生後、オウム信者たちを追ったドキュメンタリー作品「A」「A2」などで知られる森達也監督。
作品のパンフレットによると、
四人の監督の共作である「311」を別にすれば、「A2」以来だから、「FAKE」は十五年ぶりの新作映画ということになる。
との記載がある。
周囲の評判が非常に高く、この映画の話をしたいが、ラスト12分のネタバレを含んだ話になってしまうため、早く見て欲しいとの話があった。
また、森監督へのインタビュー記事が非常に面白く(こちらもネタバレ要素ほとんど無し)、絶対公開初日に見ようと決めて、公開初日に渋谷ユーロスペースで観た。公開当日は全席売り切れが相次ぎ、当日券を買いにきたが、入れない人を劇場待合室で何人も見た。
https://twitter.com/euro_space/status/738994255650119681
<当日の劇場からのツイート。16時前には当日券が売り切れていた。>
笑わざるをえない、登場人物たち
映画に登場するすべての人物が、決して滑稽なわけでは全くない。
あまりに辛い時や、不幸な時、私は笑ってしまう。今の状況を悲観するというよりも、客観視して笑いが止まらないことがある。上司に怒られているときも、ちょっとニヤニヤしてしまうことがある(より怒られる原因になる)。
この映画を観ているときも、そうだった。とにかく、「辛い」。普段、会社員をしている私は会社の倫理や、経済的な判断によって、本心に嘘をついていながらも、あたかも「本当のように」人を説得し、自社の利益に誘導することがある。
映画の中に出てきた、ある人物たちも、そのように振る舞う。劇場では大きな笑いが起こっていたが、社会に出た人間であれば、おそらく誰しもが少なくない罪悪感を抱くはずだ。罪悪感の解消のために、笑いが起こることがある。と聞いた事があるが、劇場で起こっていたのは、そのような笑いに見えた。
ドキュメンタリー映画に詳しいと言えるほど、観ている訳では全くないが、「アクト・オブ・キリング」での劇場でのいくつかの笑い声や、「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」で起こった笑いとは、また別の、「当事者として」の笑いが起こっており、また自分も加担しているという罪悪感があり、それを笑いとばしたいために、あえて大きな声で笑っている自分が見えるという稀有な劇場体験ができた映画だった。
佐村河内氏の嘘、ラスト12分間の出来事とは何なのか?
ネタバレをする気はないし、したくない。ただ、この映画については、ネットの炎上や、テレビのあり方を考える上で、非常に参考資料になる。
森監督が、あるメディアについて語ったことは、そのまま自分たちへのメッセージとして受け取れると思う。
町山智浩のネタバレについて
また、公開前に映画評論家の町山智浩氏がラスト12分については「ヤラセだ」(ネタバレを全くしたくない方用に白字で記載しています)と発言して、話題を呼んだ。なに、ネタバレしてんだよ!!と憤慨していたが、その発言に対しても、なるほど。と思えるラストだった。本質については、触れてはいない。森監督のドキュメントはそのように作られているからだ。
ネット炎上と「FAKE」について
僕たちは、いつかネット炎上・テレビ、雑誌をはじめとするメディアでの批判の被害者になる可能性もある。そして、しばしば加害者になる。ネットでの炎上について調べたりするだけでも、そうなると私は思っている。PVのアップの一因になることで、ライターは次の炎上についても、取り上げるようになるだろう。もしかすると、直接的に炎上に加担した人も、これを読んでいるかもしれない。
ただ、本当にその炎上は正しいのか?正しいというのは、誰の目線で正しいといっているのか?その炎上は、誰かの怒りに乗っているだけじゃないのか?炎上によって、被害者はどうなる?...
これらのことを考えたことがない人はいないとは思うが、誰かを一方的に叩くことが許されているように見える今、メディアを作る立場、受け取る立場の人たちは、この映画を観るべきなのではないかと思う。
もう少し、踏み込んだ考察をしたいのだが、ネタバレを含む内容になるか、見ていない人には、意味のわからない文章になるかしか能力の問題で書けない。
人と一緒に、劇場で観るべき映画
誰が見ても、「面白いし、笑える」と思う。ただ、観終わった後に、「語りたい欲」がものすごい映画だ。「面白いし、笑える」というのは、アクションコメディのような感覚とは全く違う感覚だ。
一人で行くと、帰り道に映画館から出てくる人を呼び止めて、「どう思いましたか!?」と聞きたくなるような映画だ。それくらい、語りたい欲が出る。人と観に行ったのだが、普段ドキュメンタリー映画に興味のない友人も「ビックリするくらい面白かった」と語っていた。その後、飯屋、電車の中でもこの映画に関しての話が尽きなかった。
また、映画を観る場所も、DVDが出るまで待つ手もあるのだが、劇場で観て、本当に良かったなと思った。この映画の最中、「笑い」が観客から起きる。ただ、その笑いはコメディシーンの笑いとは、全く違うものだ。自分の罪悪感を晴らすかのような、わざとらしい笑いが起こっていた。この劇場体験は、私は初めてだった。
何の関係もない映画で、誰からも一円も貰っていないのだが、絶対に「劇場で」「気の合う人」と観に行く事をお勧めする映画だ。
私は帰ってきてから、録画してあったテレビ番組の見え方が変わった。ずっと考えていきたいテーマを扱った映画だった。猫を飼いたい。
<劇場情報などはこちらから(公式サイト)>